懐かしのヒーローロボット列伝

第1回 鉄腕アトム

1.アトムはなぜ開発されたのか?

 ヒーローロボットといえば鉄腕アトム。米国がスーパーマンなら日本は鉄腕アトムだ。空を越えて星の彼方へ。まさしく科学の威力。

 さて、このアトム、誰が作ったかご存じでしょうか?現実にはもちろん手塚治虫ですが、ストーリー上ではお茶の水博士だと思っている人も多いのでは。実は製作者は彼の前任の科学省長官、天馬博士なのです。お茶の水博士同様、彼も科学者官僚でした。そして、アトムの開発目的は「身代わり」。アトムは彼が交通事故で亡くした一人息子「トビオ」の身代わりとして製作されたのです。科学技術の粋を凝らして作られたのに心も姿も人間の子供そっくりなのは、この開発目的に由来します。

 ところが天馬博士は、ここで工学開発上陥りやすい間違いを犯してしまいます。仕様を欲張ってしまったのです。ジェットで空を飛び、力は10万馬力。聴力、視力とも超人間的な能力を与えてしまったのでした。いわゆる「7つの威力」ですね。ところが、成長しないロボットでは実の息子の代わりにはならないということに気づき、天馬博士はアトムをサーカス(!)に売り払ってしまうのです。でも、機械とはいえ、自ら製作したものをそう簡単に手放せましょうか。実際のところ、あまりの完璧さに飽きてしまったのかも知れません。「できの悪い子ほどかわいい」の裏返しといったところでしょうか。

 とはいえ、総て自腹で開発したのならともかく、天馬博士がアトム製作に踏み切るためには、表向きの開発理由も必要でした。アトムに使用されている技術の基礎開発は、それ以前に世界の多数の科学者・技術者によってなされたことになっています。「これらの技術を総合して究極の人型ロボットを製造する」というのが表向きの開発目標でした。要素技術を総合して1つの完成品にするというのは日本が得意と言われている「商品開発」に似たところもありますね。

2.アトムの開発環境は?

 既存の要素技術の総合とはいっても、それをアトムという形で具体化するというのは、そう容易いことではなかったはずです。経費も相当かかったはず。現実には科学者が一人で、これだけのことを短期間に行うのは不可能ですし、長官とはいえ富豪ではありませんから、莫大な開発費をポケットマネーで賄うことは不可能です。あ〜ぁ、ポケットマネーで研究が全部できるほど裕福だったら、研究費申請書類でひーひー言わずにすむのに、とこれは愚痴。

 天馬博士が長官を勉めていた科学省というのは、日本の科学技術全般を統括するという官庁です。実在の官庁で云えば、文部省+科学技術庁+日本学術会議+科学技術会議の全てを取り仕切る巨大官庁になりますね。アトムは、周囲の反対を押し切って国家プロジェクトとして開発されました。とはいえ、税金を使うプロジェクトを長官の独断で決定することはできませんから、予算申請やら国会答弁やらはどうやって切り抜けたのでしょうか。やはり、究極の人型ロボットを実現するというテーマの魅力に取り憑かれ賛成した科学者・技術者・官僚が何人かいたのではないでしょうか。

 あれ、ちょと待ってください。そうだとすると、アトムを私物として売却までしているのは「業務上横領」になってしまいますね。彼が犯罪者ではないとすると、アトム本体は天馬博士の私費で製作された「2号機」だったのでしょうか?とすると、TVアニメ版で、「科学省の大掃除で発見されたアトムの兄」とされているコバルトが「1号機」なのかも。中を開けてみるとジャンパ線だらけの配線とか、特別仕様の部品とかが多用されているのかも知れませんね。

3.アトムの保守管理

 アトムの動力源は原子力です。これは名前からもわかりますね。鉄腕アトム発表当時、原子力は原爆と表裏一体の技術でありながら、無限のエネルギー源ともてはやされたのも事実でした。では、アトムは燃料補給は不要なのかと思いきや、しばしばお尻からエネルギーを補給していました。核燃料を補給していたのでしょうか?でも、核の灰である高レベル放射性廃棄物を捨てるシーンはなかったので、その点が謎です。「正義の味方」なのですから、くれぐれもどこぞの原子力発電所のように放射能漏れは起こさないで欲しいものです。

4.アトムの利用法

 開発当初の利用目的に適合しなかったアトムは、サーカスにされたのですが、「サーカス」を「娯楽」と広くとらえると、意外と説得力が出てきます。当面の需要はないが、能力が優れているとなると、最初に思いつく利用法は「娯楽」だからです。何か昨今のパソコンの利用状況に似てはいないでしょうか。多くの家庭で、まずゲームに使うのがもっとも有効という考え方もあります。遊びに使っているうちに、全体能力が把握できてきて、より効果的な利用方法に考えが及んでくるということでしょうか。本人には失礼かも知れませんが、作ったものの明確な利用法がわからなかった初期に、「サーカスの見せ物」という娯楽利用というのも案外理にかなっていたのかも知れませんね。


プラントメンテナンス1997年4月号掲載

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